令和5年度 弁理士短答式試験(特許 問2)

三鷹深大寺特許事務所

 令和5年度 弁理士短答式試験(特許 問2)

 

【特許・実用新案】問2

 

特許権についての実施権等に関し、次のうち、正しいものは、どれか。

文字

 

1 特許権について専用実施権が設定され、その登録がされている場合、特許権者は、専用実施権者の承諾を得なくとも特許権を移転することができるが、専用実施権者は、特許権者の承諾を得ない限り、専用実施権を移転することができない。

 

 

× 特許権者は専用実施権者の承諾なく、特許権を移転することができる。専用実施権者は、原則移転はできないが、実施の事業とともにする場合、相続その他の一般承継の場合であれば、特許権者の承諾を得ない場合においても専用実施権を移転することができる(特77条)。

 

2 特許権者甲は、乙に対してその特許権に関して設定行為で実施の範囲を制限することなく通常実施権を許諾し、その後、丙に対してその特許権に関して設定行為で実施の範囲を制限して専用実施権を設定し、その登録がされたとき、丙は、甲及び乙の両者の承諾を得た場合に限り、その専用実施権について質権を設定することができる。

 

 

× 丙が質権を設定するさいに必要なのは、特許権者の承諾のみ。例えば、甲が乙に通常実施権設定後に質権を設定する際に、乙の承諾を必要としないことと同様。

 

3 特許法における通常実施権の規定には、特許法第 35 条第1項に規定する職務発明に係る特許権についての通常実施権及び同法第 79 条に規定する特許権についての先使用による通常実施権については、当該特許権者は当該通常実施権を有する者から相当の対価を受ける権利を有することは規定されていないが、同法第 79 条の2に規定する特許権の移転の登録前の実施による通常実施権、同法第 80 条に規定する特許権についての無効審判の請求登録前の実施による通常実施権及び同法第 82 条に規定する意匠権の存続期間満了後の特許権についての通常実施権については、当該特許権者は当該通常実施権を有する者から相当の対価を受ける権利を有することが規定されている。

 

○ 条文の通り。職務発明や先使用に係る通常実施権は特許権者への対価が不要な無償な権利であるが、特79条の2に係る通常実施権等は例外的に対価を必要とする。79条の2は、冒認出願等のため、本来無効となる特許権が、正当な特許権者に移転することにより特許権が存続する場合の先使用権の扱いを定めたもので、先使用権者を救済するとともに、真の特許権者(移転後の特許権者)の利益も担保することも考慮されているため、対価が必要とされた。

 

4 特許庁長官は、自己の特許発明の実施をするための通常実施権を設定すべき旨の裁定をした後に裁定の理由が消滅したときは、職権で裁定を取り消すことができ、裁定の取消しがあったときは、その通常実施権は初めから存在しなかったものとみなされる。

 

 × 通常実施権は「初めから存在しなかった」ものとみなされるのではなく、「その後消滅する」。

「前条第一項の規定による裁定の取消があつたときは、通常実施権は、その後消滅する。」(特91)

 

5 甲が所有する特許権に、公共の利益のための通常実施権の設定の裁定により、時期を令和5年1月1日から5年の間とし、対価の額を 10 億円とする通常実施権が設定された。この場合、甲は、その時期及び対価の額の両方についての不服を、その裁定についてのその裁定についての 行政不服審査法の規定による審査請求における不服の理由とすることができる。

 

 × 裁定で定める対価についての不服をその裁定についての不服の理由とすることはできない(特93条3項で準用する特91条の二)。

「第八十三条第二項の規定による裁定についての行政不服審査法の規定による審査請求においては、その裁定で定める対価についての不服をその裁定についての不服の理由とすることができない。」(特91条の2)

なお、裁定に伴う通常実施権としては以下がある。

① 不実施の場合の通常実施権(特83条)

② 他人の特許発明等を利用する場合における通常実施権(特72条、特92条)

③ 公共の利益のための通常実施権(特93条)

 

  

問2の回答 3                                  

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