令和3年度 弁理士短答式試験(特許 問5)

 

2022.7.3  弁理士 Gatto della Fortuna

【特許・実用新案】問5

特許出願の審査及び出願公開に関し、次の(イ)~(ホ)のうち、正しいものは、いくつあるか。 

1  1つ

2  2つ

3  3つ

4  4つ

5  5つ

 

(イ)審査官甲が通知した拒絶の理由に対して出願人乙が意見書及び手続補正書を提出する 直前に、出願人乙は、審査官甲が出願人乙の配偶者の伯父であることを知った。この場 合、出願人乙は審査官甲の忌避を申し立てることができる。 

 

× 出願人は審査官に対し除斥を申し立てることはできるが、忌避を申し立てることはできない(特48条で準用する特139条)。

なお、三親等以内の姻族が事件の当事者である場合は除斥される(特139条2項)。本件において、審査官は出願人の配偶者の叔父(三親等の姻族)なので、除斥を申し立てれば、審査官は除斥される。

 

 (1親等)子 ーー 本人(配偶者)ーー(1親等)父母 ーー(2親等)祖父母 ーー(3親等)伯父母・叔父母

 

(ロ) 特許出願人が、特許法第65条第1項に規定する補償金の支払いを請求する場合は、必ず特許出願に係る発明の内容を記載した書面を提示して警告をしなければならない。 

 

× 特許出願に係る発明の内容を記載した書面を提示して警告しない場合においても、出願公開がされた特許出願に係る発明であることを知って特許権の設定の登録前に業としてその発明を実施した者に対しては、補償金の支払いを請求することができる(特65条1項後段)。

 報奨金請求制度において警告が必要となる理由は、数の多い公開特許公報をすべて見ることを負わせるのは第三者にとって酷であるため。これに対し、公開特許公報を読み、既に発明の内容を知っていた者が、あえて当該発明を実施することは、悪意ある行為と見做されているためと考えられる。

 公開特許公報に開示された発明は、まだ審査前であり、そのまま特許となるか否か不明であるにも関わらず、「悪意ある行為」と見做すことは第三者にとって厳しいと思われるが、その妥当性はどこにあるのだろうか。もっとも、当該発明を実施している第三者が、公開公報を見たか否かの立証責任は出願人側にあり、現実的にはこの立証は極めて困難と思われるので、実務上は、問題となっていないと思われる。

 

(ハ) 審査官が拒絶をすべき旨の査定をしようとする場合は、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならないが、特許法第53条第1項に規定する補正の却下の決定をするときは、この限りでない。 

 

○ 却下の決定をするときは、意見書を提出する機会を与える必要はない(特50条ただし書)。

 

(ニ) 拒絶の理由の通知は、文書をもって行い、かつ、理由を付さなければならないことが特許法において規定されている。 

 

× 「審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。(特50条)」とあり、「通知」の手段として文書を用いることまでは特定されていない。

 なお、補正の却下(特53条)は、文書をもって行い、かつ、理由を付さなければならない(同条2項)。

 この理由(文書とするか否か)は明らかではないが、補正の却下は出願人が意見をいう機会をなんら与えない点で厳しいものであるから、後に争いになる恐れが高いので、証拠力を高めるために文書としているのではないかと思われる。

 

(ホ) 特許出願について拒絶をすべき旨の査定となる理由のうち、特許を無効にする理由となるものは、特許法第 36 条第6項第4号に規定する要件(いわゆる特許請求の範囲の記載に関する委任省令要件)違反、特許法第 37 条に規定する発明の単一性の要件違反及び特許法第 17 条の2第4項に規定する要件(いわゆる技術的特徴の異なる別発明への補正の禁止)違反以外の理由のすべてである。 

 

× 新規事項の追加(特17条の2第3項)のうち、外国語書面出願については無効理由から除かれている(特123条1項1号)。また、共同出願違反(特38条)および冒人出願のうち、特許権の移転があった場合(特74条1項)も同様(特123条1項2号、6号)。

前者において、外国語書面出願において新規事項の追加を問われるケースとは、誤訳訂正書をしないまま、意見書にて主張した場合が考えられる。本来、誤訳訂正書を提出しておけば済む問題であり、単なる手続的、形式的瑕疵と考えられ、無効理由から除かれている。

 それでは外国語書面自体にない新規なことが補正により追加されたことにより、例えば進歩性が解消され、特許となった場合はどうか。すなわち、審査官が新規事項であることを二重の意味で看過した場合(1つ目は当初書面に記載がない事項であることを看過。2つ目は、誤訳訂正書が提出さなかったことに対する看過)。この場合は、単純に誤訳訂正書に基づく進歩性欠如が無効理由となろう。

 後者については、特許権の移転により問題が解決していることによる。

 

 

問5の回答 1