2022.7.5 弁理士 Gatto della Fortuna
【特許・実用新案】問6
特許出願に関する優先権に関し、次の(イ)~(ホ)のうち、正しいものは、いくつあるか。
ただし、特に文中に示した場合を除いて、特許出願は、外国語書面出願、国際出願に係る特許出願、特許出願の分割に係る新たな特許出願、出願の変更に係る特許出願又は実用新案登録に基づく特許出願ではなく、取下げ、放棄又は却下されておらず、査定又は審決が確定しておらず、いかなる補正もされておらず、いかなる優先権の主張も伴わないものとし、文中に記載した優先権の主張は取り下げられていないものとする。
また、以下において、「国内優先権」とは、特許法第 41 条第1項に規定する優先権をいうものとする。
1 1つ
2 2つ
3 3つ
4 4つ
5 5つ
(イ) 国内優先権の主張を伴う出願をする場合に、先の出願が特許法第30条第2項の規定の適用を受けているとき、この国内優先権の主張を伴う出願は、新規性を喪失した時点から1年以内でなくても、先の出願から1年以内に特許出願をすれば、特許法第30条第3 項に規定する同条第2項の規定の適用を受けようとする旨を記載した書面を改めて提出することなく、発明の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けることができる。
(イ) × そのような規定はない。特41条2項には、新規性喪失の例外については、特30条1項、2項のみが適用されることが規定されているが、書面の提出に関する3項は含まれていない。したがって、第3項に規定された第2項の規定の適用を受けようとする旨を記載した書面については、先の出願時に提出していても、国内優先権主張を伴う後の出願を行う際に、あらためて提出する必要がある。一方、同項に規定された特30条2項の適用を受けることができる発明であることを証明する書面については、先の出願において提出された内容と変更がない場合は、後の出願時にその旨を願書に表示すればよく、提出を省略することができる。 詳細は、「平成30年改正法対応 発明の新規性喪失の例外規定についてのQ&A集、令和3年10月、特許庁」を参照。
(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/hatumei_reigai/h30_qanda.pdf)
(ロ) 優先権の主張の基礎とされた先の出願が国内出願であり、優先権の主張を伴う後の出願が日本国を指定国に含む国際出願(いわゆる自己指定)である場合、優先日から30月 を経過する前はその優先権の主張を取り下げることができる。
(ロ) ○ 「出願人は、国際出願において第八条(1)の規定に基づいて申し立てた優先権の主張を優先日から三十箇月を経過する前にいつでも、取り下げることができる。」(特許協力条約に基づく規則 (2022年7月1日発効)、90の2.3 優先権の主張の取下げ(a))。
しかしながら、先の出願から1年4月経過後であっても優先日から30月経過するまで、優先権主張を取り下げることはできる、という意味に留まり、みなし取下げとされた先の出願が再度係属することはない(特実審査基準 第ⅴ部 第2章 国内優先権 「別添表: 特許協力条約に基づく国際出願と優先権との関係」)。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/05_0200.pdf
個人的感想としては、いわゆる典型的な重箱の隅を問う問題であり、実務上は覚えておく必要がないと思われる。実務的には、先の出願の日から1年4月経過すると、先の出願がみなし取り下げとなる点(特許法施行規則第28条の4第2項)が重要。
(ハ) 国内優先権の主張の基礎とされた先の国際特許出願は、国内処理基準時又は国際出願日から経済産業省令で定める期間を経過した時のいずれか遅い時に取り下げたものとみなされる。
(ハ) ○ 特184条の15 第4項、第42条第1項。
個人的には、これは難しかった。先の国際特許出願が日本を指定国に含むことを記載していないので、×かと思ってしまったが、問に国内優先権の主張の基礎とされた先の国際特許出願とあることからすれば、日本を指定していることは明らかといえる(日本を指定していなければ、国内優先権の主張の基礎とできないので。パリ条約による優先権となる。)。
優先権には、①国内優先権(特41条)、②パリ条約による優先権(特43条)、③パリ条約の例による優先権(特43条の2)があり、また、国際特許出願との関係もあるので、整理する必要がある。
優先権の主張の基礎となる先の出願 優先権の主張を伴う後の出願 主張することができる優先権
国内出願 我が国を指定国に含む国際出願(自己指定) 国内優先権
日本及び他国を指定した国際出願 国内出願 国内優先権又はパリ条約による優先権(出願人の選択)
我が国を指定国に含む国際出願 パリ条約による優先権
(特許庁 審査基準 第V部 第1章 パリ条約による優先権 5.3 特許協力条約に基づく国際出願と優先権)
(ニ) 甲が、特許出願Aに係る発明イの特許を受ける権利を乙に譲渡し、その旨を特許庁長官に届け出た後、乙は、出願Aの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明イに基づいて国内優先権の主張を伴う特許出願Bをすることができる。
(ニ) ○ 特許を受けようとする者は、その特許出願に係る発明について、その者が特許を受ける権利を有する特許出願であって先にされたものの願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明に基づいて優先権を主張することができる(特41条1項)。乙は発明イの特許を受ける権利を譲受しているので、優先権を主張することができる。
(ホ) 国際出願日に特許協力条約に拘束されるすべての締約国を指定した国際出願において、日本国の国内出願を基礎として優先権を主張した場合、国際出願の指定国から日本国を除外する手続を国内出願の出願日から14月以内に行ったときに限り、国内出願のみなし取下げを回避することができる。
(ホ) × 国内優先権主張を取り下げることによっても、国内出願のみなし取下げは回避できる。
【重要】 日本以外の指定国においては、パリ条約による優先権主張が維持される。
(参考)特許庁、PCT国際出願関係手続QA、5−1.
https://www.jpo.go.jp/system/patent/pct/tetuzuki/pct_tetuduki_qa.html#5-1
なお、現行法(2022.7.4.)では、問にある日本国を除外する手続を行う期間は、優先日から16月以内。
問6の回答 3 (2022.7.5)